W.F.S.的なLA生活

ワイン、フード、スポーツを愛するロサンゼルス在住者Ritzの日記

「反転 ― 闇社会の守護神と呼ばれて」

「反転 ― 闇社会の守護神と呼ばれて」 田中森一 著 (幻冬舎)
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日本に行ったとき書店で平積みされており、「面白そうな本だなあ」と思っていたのだが、たまたま後輩がその本を持っていて、プレゼントしてくれた。実際、非常に面白い本で、検察のエースだった筆者が一転、弁護士に転身するや、今度はヤクザやうさんくさい連中の弁護を引き受けて、無罪を勝ち取りまくるという話である。しかし最後は検察ににらまれて、詐欺事件の片棒を担いだとして逮捕、実刑を食らってしまう(まだ法廷闘争中)。実話ならではの迫力にグイグイ引きこまれ、400ページもある分厚い本だが、あっという間に完読してしまった。

筆者は長崎平戸で極貧の生まれから、一念発起して司法試験に合格し、検事として東京地検や大阪地検の特捜部で名検事として名を馳せた。しかし国策捜査と呼ばれるような、政治や官僚の権力に迎合する恣意的な捜査方針に嫌気が差し、検事を辞めて大阪で弁護士事務所を開設した(いわゆるヤメ検弁護士になったわけだが、弁護士を開業したとたん、ご祝儀でなんと7000万円も集まったとか)。

時はバブルの真っ最中。山口組の宅見勝若頭などヤクザの幹部やイトマン事件の許永中のようなバブル紳士など、彼が弁護を引き受けたり、交流のあった人物が実名でバンバン登場する。他には「兜町の帝王」小谷光浩、「コスモポリタングループ」の池田保次、末野興産の末野謙一、石川さゆりのパトロンで名をはせた、アイワグループの種子田益夫などなど。とにかく彼らと親交のあった筆者ならではのバブル時の臨場感が横溢している。

中でも一番印象に残っているのは拓銀をつぶした男と呼ばれる、焼き鳥チェーン「五えんや」の中岡信栄の想像を絶する金の使いっぷりの話だ。

中岡は小学校も出ておらず文字も読めなかったという。ところが松下電気の社員食堂に勤めたころ、かの松下幸之助に気に入られ、その後1本5円の焼き鳥屋から身を起こし、バブル期にはホテルや、ゴルフ場、ノンバンクまで手を広げて一代で巨万の富を築いた。(しかし、元をたどれば、資金は拓銀系のノンバンクからの借り入れで、結局グループはバブル崩壊後の1993年に倒産し、3000億円が焦げ付き、これが拓銀の破綻の大きな原因となった)

字も読めない中岡は、金回りが良くなるとエリートや有名人とつきあえるうれしさから、自分を訪ねてくる人間には、「あいさつ」「ご祝儀」と称して誰彼構わず金を渡しまくった。ホテルのボーイに5万円、新聞記者には20万円、筆者のような弁護士には100万円も会うたびに渡していたという。しかも筆者が一日に三回くらい面会すると、そのたびに100万円渡されたという。

こういう噂を聞きつけて、政治家、芸能人やら有名人も群れをなして中岡に「たかり」にやって来た。京唄子や横山ノックは常連で、一度に300万円から500万円、多いときには1000万円も「ご祝儀」もらっていたという。ホテルのボーイも1回に5万円ももらえるので、用もないのに何度も部屋にやってくるが、何回来ようが中岡は惜しむことなく金を配り続けた。

中岡は大阪から東京に出張に出てくると1泊200万円するホテル・オークラの最高級のスイートルームを1か月ぶっ通しで借り切った。筆者が中岡に呼ばれて、その部屋に行くと竹下登や安倍晋太郎などがちょくちょく訪れていたという。

また中岡がゴルフにくりだすシーンも壮絶だ。ゴルフの際はゲスト20〜30人引き連れて、ゴルフ場を借り切り、しかもクラブハウスのゴルフショップの品物を全部買い取って、「みんな好きな物を持って帰れ」というような狂ったような放蕩ぶりだったという。

著者も中岡にどこか思い入れをもって書いている。それは自らもそうであった「成り上がり」への共感でもあり、同時に、金を使っているようで、実は金に使われている人間への深い哀れみ、深い自嘲でもある。

筆者は、金持ちながらも被差別階級出身の人々への慈しみの視線を投げかけているが、同時に検察のあり方を強く批判している。現在裁判中だから、自己弁護の側面もあるだろうが、その主張には一定の真理も含まれていると思う。

何よりも「検察は正義の味方」というのは幻想でしかないという言葉には考えさせられた。なぜかというと検察は組織としては法務省の監督下にある。法務省のトップは言うまでもなく法務大臣たる政治家だ。政治家や法務省の高級官僚を上層部に抱く検察が、彼らから全く無垢でいられるというのは制度的にありえないからだ。つまり検察が自分の親分たる政治家や官僚の汚職や犯罪を裁くという構図は明らかに不合理を含んでいる。

もちろん検察から汚職や犯罪で逮捕される政治家もいるが、しょせんそれは小物である。本当の巨悪は、自分たちには絶対に追求の手が及ばないようなシステムを作り上げている。それを思うと暗澹たる気持ちになってくる。

とにかく一気に読ませる好著である。 同時にこの本が語るところは日本の狂っていたとしか思えない、凄まじいまでのバブルの証左であろう。
  1. 2008/02/11(月) 22:26:53|
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